電離圏嵐のプロットおよび宇宙天気現象の分類 の説明に出てきます、電離圏嵐指標「I-scale(アイ・スケール)」についてここでご紹介します。

太陽フレアや地磁気の乱れには、その規模の指標となるX線フラックスやK指数といった明確な基準がありますが、電離圏の乱れ(電離圏嵐)については、これまで明確な基準がなく、どの程度の乱れであるかを決めることが難しい状態でした。これは、電離圏の電子密度が、緯度帯・地方時・季節によって大きく変動するため、一律に基準を決めにくいためです。この問題点を克服し、電離圏パラメタの乱れ具合をどの緯度帯・地方時・季節でも一律に表す基準のひとつとして開発された目盛りがI-scaleです。I-scaleは、電離圏パラメタの直前27日平均値(=基準値)からのずれが、その緯度帯・地方時・季節の18年分のずれの分散に比べてどの程度大きいかを示したものです[ Nishioka et al., 2017]。パラメタが増大する電離圏正相嵐については、規模の大きいものからIP3・IP2・IP1、パラメタが減少する電離圏負相嵐については、規模の大きいものからIN3・IN2・IN1、静穏時はI0と定義しています。表にありますように、分散値σを基準に定めています。たとえば、5σよりも大きい場合はIP3になります。

私たちは、電離圏全電子数(Total Electron Content:TEC)および電離圏臨界周波数(foF2)のそれぞれについて、I-scaleにより電離圏嵐を評価しています。ウェブサイトの電離圏嵐アラートレベルとしては、日本近傍の5緯度のTEC(北緯45, 41, 37, 33, 29度)と4地点のfoF2(稚内、国分寺、山川、沖縄)のうち、最も大きなI-scaleを示しています。

表. I-scaleの名称・定義・発生頻度とウェブサイトの電離圏アラートレベルとの対応

以下は、I-scaleの導出方法の詳細になります。ご興味ある方は、参考論文もご参照ください。

電離圏パラメータ(ここではTECおよびfoF2)の時系列データをO(λ, LT, day)とし、直近27日間の同一地方時(Local Time=LT)・同一緯度帯λの中間値をR(λ, LT, day)とすると、中間値からのずれの割合は P(λ, LT, day)={O(λ, LT, day)-R(λ, LT, day)} /R(λ, LT, day) として求まります。1997-2014年の長期観測データを、季節依存性(season)として、2-4月、5-7月、8-10月、11-1月の4つに分け、さらに緯度帯(λ、TECは上記の5地点、foF2は上位の4地点)、地方時(LT=1, 2, …, 24時)別にグループ分けし、P値の分布を求めます。各グループのP値の分布の平均μ (λ, season, LT)と標準偏差σ(λ, season, LT)を導出します。これらを用いて、P値を規格化した
P(λ, LT, season)={P(λ, season, LT)-μ(λ, season, LT)}/ σ(λ, season, LT) を求めます。これがI-scaleの指標の素となります。

P値のヒストグラムの一例を図1に示します。緯度29度帯LT20時の春(図1a)と夏(図1b)のTEC値の分布は、値の分布が異なります。春のほうが、大きなP値が多くみられます。これは、季節変化によるものです。規格化した後のP値で同じようにヒストグラムを示したものが図2です。P値よりもP値の分布の形が似たものになり、季節によらず同程度のP値の発生数を同じ割合にそろえることができます。同様に、P値はLTや緯度帯が異なると分布が大きく異なりますが、 P値では発生数の分布をそろえることができます。

このP値を用い、I-scaleでは、P>5ならIP3、3<P≤5ならIP2、1<P≤3ならIP1、-1≤P≤1ならI0、-2≤ P<-1ならIN1、-3≤P<-2ならIN2、P<-3ならIN3と定義します。NICTの宇宙天気予報では、IP2以上の正相嵐もしくはIN2以上の負相嵐が2時間以上継続した場合「電離圏嵐は活発」、IP3の正相嵐もしくはIN3の負相嵐が2時間以上継続すると「電離圏嵐は非常に活発」、というアラートレベルに対応します。その条件を満たすと、TECおよびfoF2の時系列プロットにフラグが表示されます。図3は、2017年9月にTECで見られた電離圏嵐の様子です。9月7-8日に非常に大きな正相嵐が日本上空の広い緯度帯で発生し、9月9日には日本の高緯度帯において負相嵐が見られました。

図1. 緯度29度帯LT20時の春(左)と夏(右)のTECから求めたP値(規格化前)のグループの、ヒストグラム[after Nishioka et al., 2017]。
図2. 緯度29度帯LT20時の春(左)と夏(右)のTECから求めたP値(規格化後)のグループの、ヒストグラム[after Nishioka et al., 2017]。
図3. 2017年9月5~10日の6日間のTECの時系列。赤線は観測値(本文中のO)、黒線は直前27日間の中間値(本文中のR)。灰色はI-scaleの大きさを示す。2時間以上継続した大きな電離圏嵐発生イベントにフラグ(ここではIP2、IP3、IN2)が付く。

参考論文:Nishioka, M., T. Tsugawa, H. Jin, and M. Ishii (2017), A new ionospheric stormscale based on TEC and foF2 statistics, Space Weather, 15, 228–239,doi:10.1002/2016SW001536(論文ウェブサイトへ