宇宙天気とは

宇宙天気擾乱の発生と社会への影響の概念図

「宇宙天気予報」という言葉は、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。 もちろん、宇宙に雨や雪、台風が発生するということはありませんが、実は、 それに似た現象により私たちの生活は様々な影響を受けています。

まず、宇宙天気と密接な関係のある太陽の活動についてお話しします。

太陽の活動は、人類の活動に大きく影響を与えています。 太陽は46億年という長い時を「燃え」続けていますが、この熱と光はどのように生み出されているのでしょうか。 実は太陽は水素と呼ばれる元素の塊であり、 その水素原子4つが「核融合」することでヘリウムに変換される際にわずかに失われる質量がエネルギーとして放出される結果で発生しています。いってみれば太陽は天然の核融合炉と言えます。 太陽の光や熱は地球上の生き物に欠くべからざるものではありますが、それと同時に生命にとって有害なX線や紫外線、高温の電離気体をも放出しています。

太陽からくるこれらの危険な物質に対し、地球は2つの防護壁を持っています。 一つは地球のもつ濃密な大気であり、太陽からくるX線や紫外線などの電磁波が地上に届くのを防いでいます。 生命にとって有害なこれらの電磁波を防ぐ過程で大気のもっとも外側の領域は「電離圏」と呼ばれる電気を帯びた層となっています。 もう一つは地球の持つ磁場であり、これが太陽からくる「太陽風」と呼ばれる電気を帯びた気体の流れから地球を守っています。

しかしながら、後述する太陽面爆発やそれに伴うコロナ質量放出(CME)の発生などにより高密度の太陽風が地球方向に放出されたときには、 その太陽風の持つ磁場の向きによっては地球磁場の防護壁をすり抜け、地球のそばまで太陽風の影響が到達することがあります。 これにより、まず大気の防護壁の外にある人工衛星や宇宙ステーションなどの運用に影響が現れます。 具体的には、高いエネルギーの粒子が人工衛星を突き抜ける際に電子機器の誤作動を引き起こし異常動作となる可能性、 あるいは比較的エネルギーの低い荷電粒子が衛星の筐体を帯電させ、ショートすることで回路等を破壊する現象などが挙げられます。 また宇宙飛行士などには被ばくの問題も発生します。

更には、この高密度の太陽風は前述した電離圏の構造を乱し、静穏な時とは大きくその状況を変えてしまいます。 その結果電離圏反射を利用する短波通信・放送や、電離圏を透過する衛星・地上間の電波利用に影響を与えます。 特に最近ではカーナビなどに利用される衛星測位への誤差要因として注目されています。

このような一連の自然現象を「宇宙天気」と呼び、その現況把握及び予測を「宇宙天気予報」と呼んでいます。 近年もっとも宇宙天気に関する情報を必要としている分野として、航空運用が挙げられます。 近年極域航路の活発な利用が進められていますが、この領域は赤道上空の通信衛星の仰角が小さいことから、 陸上との通信は短波に頼ることになります。その一方で、極域は宇宙天気の影響を受けやすい領域でもあります。 電離圏の乱れによる短波通信の不具合に加えて、衛星測位の不具合、さらに乗客乗員の被ばくのリスクも、 極域ではより高まると考えられます。これらのリスクを避けるために、現在国際民間航空機関(ICAO)では宇宙天気が乱れているとき、 あるいは乱れが予報されるときには極域を避ける運用を行うことなどが検討されています。