太陽・太陽風

太陽

図1 太陽の大気構造
図2 太陽の多波長観測(SDO*1/AIA*2,HMI*3

太陽は、主に水素とヘリウムで構成された星で、いくつもの層構造をしています。 光球は、人間の目で見たときに見える(白色光で見える)部分で、太陽表面にあたります。 光球に見える黒いしみのような点は黒点と呼ばれ、周囲に比べて磁場が強く温度が低い場所です。 太陽内部(光球の内側)は中心部分から核、放射層、対流層と呼ばれており、 中心の核で核融合反応を起こし光と熱を発しています。 一方、太陽外層(光球の外側)には彩層、遷移層、コロナがあります。

彩層はHαという水素の輝線で紅く観測される層です。 彩層にはフィラメントと呼ばれる(陰のような)暗い筋状の構造が見られます。 これは太陽の自転とともに太陽の縁に移動すると、宇宙を背景に明るいループ構造として観測され、 プロミネンス(紅炎)とも呼ばれます。このフィラメントもしくはプロミネンスは、 時折、自発的もしくは太陽フレアに伴って噴出することがあり、フィラメント噴出やプロミネンス噴出と呼ばれています。 さらに宇宙空間まで飛び出すとコロナ質量放出と呼ばれます。

太陽は、可視光以外にも電波、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線など様々な光(電磁波)を放射しています。 そして、さまざまな色(波長)の光で太陽を見ると、ダイナミックな太陽活動が見えてきます。 図2は人工衛星が宇宙から観測した4波長の太陽画像です。(a)は白色光で見た太陽光球で、黒点が見えます。 (b)は可視光の偏光分光観測により、黒点の磁場を観測しています。 (c)は極端紫外線(304Å)で見た太陽で、5万度の遷移層を観測しています。暗い筋状のフィラメントも見えています。 (d)は極端紫外線(193Å)で見た太陽コロナで、黒点上空や太陽フレアが明るく光って見えます。

  • *1 SDO = Solar Dynamics Observatory
  • *2 AIA = Atmospheric Imaging Assembly
  • *3 HMI = Helioseismic and Magnetic Imager

太陽フレア

図3 2000年6月7日14:49UTに観測された太陽フレア(ようこう軟X線望遠鏡 JAXA宇宙科学研究所)
図4 太陽黒点の11年周期
(ベルギー王立観測所)

太陽面の黒点の周辺で突然明るく光る現象があり、これを太陽フレアと呼びます(図3)。 太陽フレアは太陽系最大の爆発現象で、爆発に伴って太陽大気のガス(プラズマ)や人体に有害な高エネルギーの粒子、 大量の放射線(X線など)が発生します。大きさは1万~10万km、水爆の10万~1億個分の規模に匹敵しますが、 まだその発生メカニズムは1世紀以上の謎に包まれています。 太陽フレアは、磁場が強い黒点領域で発生することが多く、蓄えられた黒点磁場の歪みエネルギーを開放します。 黒点の磁場構造が複雑な場合にも大規模なフレアが起きやすいことが知られています。

太陽活動は約11年の周期で活発になったり静穏になったりしています。 太陽の黒点数も、同じく約11年周期で増減を繰り返しており(図4)、 黒点が多いと太陽活動が活発になり、太陽フレアも起きやすくなります。 逆に黒点がないと太陽フレアは起きません。従って、太陽黒点数は太陽活動の一つの指標として良く知られています。

太陽フレアの規模は、アメリカの気象衛星GOES*1の観測するX線の強度をもとに決められています。 また、古くからF10.7と呼ばれる波長10.7cmの電波強度観測が地上で行われています。 F10.7と太陽黒点数とは良い相関があり、太陽活動指標としても使われています。 またMHz~GHz帯の電波は、太陽フレアやフィラメント噴出に伴って急激に増加することがあり、 太陽電波バーストと呼ばれます。MHz帯の電波バーストは、太陽からプラズマの塊が飛び出した(コロナ質量放出)シグナルとなるため、 地球への影響を判断するために利用されています。

  • *1 GOES = Geostationary Operational Environmental Satellite

コロナ質量放出

図5 2002年1月4日10:57UTに観測されたコロナ質量放出, 白い円は太陽の位置(SOHO*2/LASCO*3

太陽フレアにともなって、大量の太陽大気のガス(プラズマ)が惑星間空間に噴出します。 これはコロナ質量放出(CME *1)と呼ばれ、秒速100-1000kmで数100億キログラムから数100億トンものガスが飛び出します。 また太陽フレアを伴わないCMEもまれに観測されることもあります。 速いCMEの場合には音速を超えているため、前面に衝撃波ができます。 また一部のCMEの中には、衝撃波の後方にコロナから放出されたと考えられる磁気ロープを伴うことがあります。 この磁気ロープは磁場が円筒の周囲に巻きついているような構造を持ちます。この磁場が南向きの時、 地球の地磁気に大きな擾乱を起こして、地磁気嵐が発生することが多く観測されています。

  • *1 CME = Coronal Mass Ejection
  • *2 SOHO = Solar and Heliospheric Observatory
  • *3 LASCO = Large Angle and Spectrometric COronagraph experiment

太陽高エネルギー粒子

図6 典型的な2つのタイプの高エネルギー粒子現象 (a)太陽フレア由来の高エネルギー粒子の突発的増加現象 (b)CME地球到来に伴う陽子の増加現象(Lario+, 2005)

太陽フレアが起きると、大量の放射線だけでなく、高エネルギーの粒子 (SEP *1:数万~数10億電子ボルトの電子や陽子・重イオンなど)も放出されます。 光速の2-3割の速度で太陽から飛来する粒子もあり、太陽フレアの発生30分後に観測されるものもあります。 こういった粒子は、電子の他、ヘリウムや鉄、酸素などの重い元素が観測されていて、 数時間~1日継続します(図6(a))。もう一つの典型例は、CME *2が地球到達と同時に高エネルギーの陽子が増加するもので、 その後なだらかに減少して数日間継続します。プロトン現象とも呼ばれます(図6(b))。

太陽高エネルギー粒子は、地球周辺の有人宇宙活動にも影響があります。 また、特にエネルギーの高い現象は地上の宇宙線モニターで直接観測されることもあります。 11年の太陽活動サイクル毎に、活動期を中心に平均10回ほど発生しています。

  • *1 SEP = Solar Energetic Particles
  • *2 CME = Coronal Mass Ejection

太陽風

図7 (a)数値計算による太陽コロナの開いた磁力線(Nakamizo+, 2009) (b)数値計算の元となる太陽コロナの紫外線観測(SOHO/EIT)暗い部分(矢印)がコロナホール (c)太陽から地球に吹きだす太陽風の数値シミュレーション(Shiota & Kataoka, 2016)

太陽コロナのガスは、つねに惑星間空間へ流れ出しています。 これを太陽風と呼び、その速さは超音速にまで加速されています。 太陽面には閉じた磁場と惑星間空間まで開いた磁場とがあり、太陽風はこの開いた磁場に沿って流れだします。 この開いた磁場の元をたどると、コロナホールと呼ばれる太陽コロナの暗い領域になり、 ガスが常に吹きだすため希薄で暗くなっています。 太陽は27日周期で自転しており、太陽風も一緒に回転するため、 スプリンクラーのように太陽を中心としたスパイラル構造をしています。

太陽風が地球に到達する1時間前に、観測衛星ACE*1やDSCOVR*2によって太陽風の密度や速度が測られています。 太陽風で秒速300km程度のものを低速太陽風、秒速700km程度のものを高速太陽風と呼び、 高速太陽風は約2日で太陽から地球に到達します。高速太陽風は太陽低緯度のコロナホールから吹き出し、 太陽自転とあわせて高速太陽風も27日周期で観測されることがよくあります。

  • *1 ACE = Advanced Composition Explorer
  • *2 DSCOVR = Deep Space Climate Observatory