トピックス詳細
太陽面で大規模な爆発が発生、地球方向への高速コロナガスの噴出を確認
国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室
2024年10月25日 17時00分 更新
太陽高エネルギー粒子・太陽風・地磁気嵐・社会影響に情報追加
2024年10月15日 16時00分 更新
太陽高エネルギー粒子・太陽風・地磁気嵐・電離圏に情報追加
2024年10月11日 17時00分 更新
太陽高エネルギー粒子・太陽風・地磁気嵐・電離圏に情報追加
2024年10月 9日 16時00分 作成
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長:徳田 英幸)は、日本時間10月9日(水)10時56分に太陽面中央付近に位置する黒点群13848において大規模な太陽フレアの発生を確認しました。この現象に伴い、コロナガスが地球方向へ放出されており、日本時間10月11日0時10分ごろに地球周辺に到来しました。この影響で、地球周辺のでは大規模な磁気嵐が観測されました。
よくある質問は、こちらをご参照ください。
背景
NICTは太陽活動や宇宙環境変動の観測を行い、その現況と推移に関する情報提供を行っています。
観測した現象
1. 大規模太陽フレア
太陽面の中央付近に位置していた黒点群13848で、10月9日10時56分(日本時間)に、X1.8クラスの大規模太陽フレアが発生しました。X線強度の推移と、発生した太陽フレアの紫外線観測画像、及び黒点の画像を以下に示します。
発生日(日本時間) |
発生時刻(日本時間) |
規模 |
---|---|---|
2024年10月9日 |
10時56分 |
X1.8 |
X線強度の推移と、発生した太陽フレアの紫外線観測画像(図1)、及び黒点の画像(図2)を以下に示します。
図1:人工衛星GOES(米国NOAA)によって観測された太陽X線強度
図2:人工衛星SDO(米国NASA)で観測された太陽画像(左:白色光、右:紫外線)
2. デリンジャー現象
X1.8クラスの大規模太陽フレアの発生に伴って、デリンジャー現象が発生しました。NICTのイオノゾンデにより観測された10月9日のデリンジャー現象と、観測画像の例(図3)を以下に示します。
発生日(日本時間) |
発生時刻(日本時間) |
場所(規模) |
---|---|---|
2024年10月9日 |
10時45分から12時00分まで |
日本各地(弱い) |
図3:イオノゾンデ(東京 国分寺)による電離圏観測。白丸で示した部分の電離圏エコーの
消失とともに、信号強度が弱くなっている様子が確認できる。
3. 太陽電波バースト
X1.8クラスの大規模太陽フレアの発生に伴って、電波ノイズの原因となる太陽電波バーストが観測されました。NICTの太陽電波望遠鏡によって観測された10月9日の太陽電波の観測データ(図4)を以下に示します。
図4:太陽電波望遠鏡(鹿児島 山川)で観測された太陽電波観測データ。色は電波の強度を示す。
太陽フレア発生後に広い周波数帯で電波強度が増大している。
4. 太陽コロナガス
X1.8クラスの大規模太陽フレアに伴って、地球方向へのコロナガスの放出が観測されました。このコロナガスの放出の様子(図5)を以下に示します。
図5:探査機SOHO(欧州ESA・米国NASA)によって観測されたコロナガス放出の様子。
中心部の白丸が太陽の位置を示す。
5. 太陽高エネルギー粒子
X1.8クラスの大規模太陽フレアに伴い、静止軌道(高度約36,000 km)で高エネルギープロトンの増加が観測されました(図6上)。米国の静止軌道衛星GOESの観測によると、この太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが10月9日11時30分頃(日本時間)から上昇し、14時5分に10 PFUを超えました(プロトン現象)。その後、16時40分に100 PFU、21時40分に1000 PFUを超え、10月11日10時頃(日本時間)に10 PFU以下の低いレベルまで減少しました。今回の太陽フレアに伴って観測された太陽高エネルギープロトンの最大値は、エネルギー10 MeV以上のプロトンで1,871 PFU、エネルギー100 MeV以上のプロトンで3.99 PFUです。また、気象衛星ひまわりの観測から、日本経度域の静止軌道(東経140度)でも同様にプロトンが増加していることが確認されました(図6下)。
図6:静止軌道衛星GOES(米国 NOAA)によるプロトンの観測値(上)、および
気象衛星ひまわり9号(日本 気象庁・NICT)によるプロトンの観測値(下)
プロトンフラックスが増大した10/9-10に、通常の電離圏反射エコーが見られなくなる極冠吸収が南極昭和基地のイオノゾンデ観測(図7)にて確認されました。
図7:イオノゾンデ(南極 昭和基地)による電離圏反射エコー。グラフの時刻はUT表記。
6. 太陽風
探査機ACEの観測によると、大規模太陽フレアに伴い放出された太陽コロナガスが、10月11日23時47分頃(日本時間)に地球周辺に到来したことが観測されました(図8)。太陽コロナガスの到来に伴い太陽風の速度・磁場強度が上昇し、最大速度が820 km/s、最大磁場強度は46 nTへ、磁場の南北成分は一時 -46 nT前後の非常に強い南向きの状態となりました。
図8:探査機ACE(米国NOAA・NASA)による太陽風の観測値。グラフの時刻はUT表記。
7. 地磁気じょう乱
気象庁地磁気観測所(柿岡)によると、10月11日0時14分(日本時間)に急始型地磁気嵐が発生しました。この地磁気嵐に伴う地磁気水平成分の最大変化量は、約432 nTでした。この期間、K指数は10段階中で上から2番目の「8」が観測されました(図9)。なお、地磁気観測所(柿岡)でK指数「8」が観測されたのは、2024年5月以来です。この地磁気嵐は13日10時頃(日本時間)に終了しました。
図9:気象庁地磁気観測所(柿岡)による地磁気指数。グラフの時刻はUT表記。
なお、この地磁気嵐に伴い、NICTのサロベツ電波観測施設(北海道)において低緯度オーロラが観測されました(図10)。
図10:NICTのサロベツ電波観測施設(北海道)にて観測された低緯度オーロラ(画像下部中央の赤い光)
8. 電離圏嵐
地磁気嵐の発生に伴い、日本上空では10月11日未明から明け方の間に東北以北で、12日昼頃から13日未明の間に北海道以北で電離圏負相嵐の発生が確認されました(図11)。また、12日未明から明け方の間に東北以北で電離圏正相嵐の発生が確認されました。
図11:国土地理院GEONETデータから算出された日本上空の電離圏全電子数の推移
シミュレーション
以下に、NICTの太陽風シミュレーションSUSANOOによって算出された太陽風の予測値を示します。太陽フレアに伴って放出されたコロナガスが地球に向かって伝播している様子が可視化されています(図12)。黄緑色がコロナガスの領域です。コロナガスの先端の衝撃波が、10月10日(日本時間)真夜中前に到来することがシミュレーションにより予測されています。実際に、11日0時10分頃に衝撃波が地球周辺を通過し、気象庁地磁気観測所(柿岡)によると11日0時14分(日本時間)に急始型地磁気嵐が発生しました。
図12:地球に到来する太陽風速度と太陽風磁場の南北成分の推移予測(上)、
10月10日21時(日本時間)の惑星間空間の太陽風の速度の分布(下)
社会影響
今回発生したX1.8クラスの大規模太陽フレアおよび関連現象に伴い、国内外で確認・報告された影響を以下にまとめます。
分野 |
場所 |
影響 |
主な影響 |
---|---|---|---|
GNSS​ |
日本 |
無 |
|
通信・放送・​ |
日本 |
有 |
|
航空 |
日本 |
無 |
|
国外 |
無 |
|
|
衛星​ |
日本 |
無 |
|
電力 |
日本 |
無 |
|
観光 |
国内外 |
有 |
|
用語解説
・太陽フレア
太陽の黒点付近で生じる爆発現象。強い紫外線やX線、電波等が放射されるほか、コロナガスが放出されることもあります。発生したフレアのX線強度の最大値により、小規模なものから、A、B、C、M、Xの順にクラス分けされています。
・デリンジャー現象
大規模な太陽フレアに伴うX線や紫外線の急増により、高度60-90 km程度の電離圏D領域が異常電離して電子密度が高くなり、通常はD領域を通過する短波帯の電波が吸収されてしまう現象。
・太陽電波バースト
太陽フレアに伴って、MHz〜GHz帯の電波強度が急激に増加する現象。MHz帯の電波バーストは、太陽からプラズマの塊が飛び出したコロナガス放出のシグナルとなるため、地球への影響を判断するために利用されています。
・コロナガス放出(Coronal Mass Ejection(CME))
太陽の上層大気であるコロナのガスが惑星間空間に放出される現象。地球に到来すると大規模な宇宙環境変動を引き起こすことがあります。
・プロトン現象
太陽フレアやコロナガス放出に伴い、高エネルギーの粒子が放出され、静止軌道(高度約36,000 km)上で観測されるエネルギーが10 MeV以上のプロトン粒子フラックスが10 PFU(Proton Flux Unit [particles/cm2 sr s])を超える場合を「プロトン現象」と呼ぶ。
・極冠吸収
大規模なプロトン現象が起きた際に、プロトン粒子が地球の磁力線に沿って極域に流れ込む影響により、極域において短波帯の電波が吸収されて通信できなくなる現象。