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大規模宇宙天気現象

2025年11月9日〜14日にかけて太陽面で大規模な爆発が複数回発生、地球方向への高速コロナガスの噴出を確認

国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室

2025年11月17日 15時20分 更新
太陽フレア・太陽高エネルギー粒子・太陽コロナガス・太陽風・電離圏嵐・地磁気じょう乱に情報追加

2025年11月12日 14時00分 作成

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)は、日本時間11月9日(日)から14日(金)にかけて、太陽面北西付近に位置する黒点群14274において、大型の太陽面爆発現象(太陽フレア)の発生を確認しました。この現象に伴い、地球方向へ向かう高速なコロナガスの噴出が複数回観測されており、放出されたコロナガスは日本時間11月12日7時ごろから数日にわたり、地球周辺に到来・通過しました。一連の現象の影響で、高エネルギーのプロトン粒子の増加や大規模な地磁気じょう乱・電離圏嵐等が観測されました。

よくある質問は、こちらをご参照ください。

背景

NICTは太陽活動や宇宙環境変動の観測を行い、その現況と推移に関する情報提供を行っています。

観測した現象

1. 大規模太陽フレア

太陽面の中央付近に位置していた黒点群14274で、日本時間11月9日(日)から14日(金)にかけて、Xクラスの大規模太陽フレアが4回発生しました(表1)。

No.

発生日(日本時間)

発生時刻(日本時間)

規模

1

2025年11月9日

16時35分

X1.7

2

2025年11月10日

18時19分

X1.2

3

2025年11月11日

19時04分

X5.1

4

2025年11月14日

17時30分

X4.0

表1:大規模(Xクラス)太陽フレア一覧

X線強度の推移(図1)と、発生した太陽フレアの紫外線観測画像及び黒点の画像(図2)を以下に示します。

図1:人工衛星GOES(米国NOAA)により観測された太陽X線強度。グラフの時刻はUT表記。

図2:人工衛星SDO(米国NASA)により観測された太陽白色光画像(上)と、
人工衛星GOES(米国NOAA)により観測された太陽紫外線画像(下)

2. デリンジャー現象

11月9日に発生したX1.7クラス(表1 No.1)の大規模太陽フレアの発生に伴って、デリンジャー現象が発生しました(表2)。NICTのイオノゾンデにより観測された11月9日のデリンジャー現象の観測画像の例(図3)を以下に示します。その他の太陽フレア(表1 No.2〜4)は日本時間で夜間帯の発生であったため、デリンジャー現象は発生しませんでした。

発生日(日本時間)

発生時刻(日本時間)

場所(規模)

2025年11月9日

16時30分

山川以南(弱い)

表2:デリンジャー現象の一覧

図3:イオノゾンデ(沖縄 大宜味)による電離圏観測。白丸で示した部分の電離圏エコーの消失が確認できる。

3. 太陽高エネルギー粒子

11月10日に発生したX1.2クラス(表1 No.2)及び11日に発生したX5.1クラス(表1 No.3)の大規模太陽フレアに伴い、静止軌道(高度約36,000 km)で高エネルギープロトンの増加が観測されました(図4上)。米国の静止軌道衛星GOESの観測によると、X1.2クラスの太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが11月10日18時55分頃(日本時間)から上昇し、20時25分に10 PFUを超えました(プロトン現象①)が、11日12時10分頃(日本時間)に10 PFU以下の低いレベルまで減少しました。その後、X5.1クラス(表1 No.3)の太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが11日18時40分頃(日本時間)から上昇し、18時55分に10 PFUを超えました(プロトン現象②)。その後、20時55分に100 PFUを超えました。

さらに、地球周辺への衝撃波到来によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが12日8時30分頃(日本時間)から再び上昇し、10時40分(日本時間)に1000PFUを超え、12日11時15分(日本時間)に最大1456 PFUに達しました(プロトン現象③)。その後12時15分(日本時間)に一旦1000PFUを下回りましたが、13日4時15分頃 (日本時間) に衝撃波の到来による再上昇が見られました(プロトン現象④)。その後、14日1時50分(日本時間) に10 PFU以下の低いレベルまで減少しました

さらに、11月14日に発生したX4.0クラス(表1 No.4)の太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが14日18時05分頃(日本時間)から上昇し、18時20分に10 PFUを超えました(プロトン現象⑤)。その後、22時25分に10 PFU以下の低いレベルまで減少し、一連のプロトン現象が終了しました。一連のプロトン現象で、静止軌道の10 MeV以上のプロトン粒子フラックスは12日11時15分(日本時間)に最大1456 PFUに達しました。

静止気象衛星ひまわりの観測からも、日本経度域の静止軌道(東経140度)でも同様にプロトンが増加していることが確認されました(図4下)。

図4:静止軌道衛星GOES(米国 NOAA)によるプロトンの観測値(上)、および
    気象衛星ひまわり9号(日本 気象庁・NICT)によるプロトンの観測値(下)。
グラフの時刻はUT表記。

なお、一連のプロトンフラックスの変化に関連して、南極昭和基地のイオノゾンデ観測にて極冠吸収が確認されました(図5)。プロトンフラックスが増大した11月10日から13日に通常よりも電離圏反射エコーが減衰し、12日から13日前半には反射エコーが見られなくなりました。

図5:イオノゾンデ(南極 昭和基地)による電離圏反射エコーを白色で示す。グラフの時刻はUT表記。

4. 太陽コロナガス

今回観測された4例の大規模太陽フレアに伴い、それぞれ地球方向へのコロナガスの放出が観測されました。このコロナガスの放出の様子(図6)を以下に示します。

図6:探査機SOHO(欧州ESA・米国NASA)によって観測されたコロナガス放出の様子。中心部の白丸が太陽の位置を示す。

5. 太陽風

探査機ACEの観測によると、今回観測された大規模太陽フレアに伴い放出された太陽コロナガスの一部が、11月12日7時頃(日本時間)に地球周辺に到来し、約3日間かけて地球周辺を通過したことが観測されました(図7)。太陽コロナガスの到来に伴い太陽風の速度・磁場強度が上昇し、最大速度は約1000 km/s、最大磁場強度は約62 nTとなり、磁場の南北成分は一時 -55 nTの非常に強い南向きの状態となりました。また16日には、14日のX4.0フレアに伴う太陽コロナガス噴出の影響による太陽風速度と磁場強度の上昇が見られています。

図7:探査機ACE(米国NOAA・NASA)による太陽風の観測値。グラフの時刻はUT表記。
11月12日の太陽風速度・密度・温度のデータは一部に異常値を含む。

6. 地磁気じょう乱

気象庁地磁気観測所(柿岡)によると、11月12日9時9分(日本時間)に、急始型地磁気嵐が発生しました。この地磁気嵐に伴う地磁気水平分の最大変化量は、約321 nTでした。K指数は、 11月12日9〜15時(日本時間) に「8」(0〜9の10段階で上から2番目)、同日18〜21時に「7」が観測されました(図8)。地磁気観測所(柿岡)でK指数=8が連続的に観測されたのは、2024年5月以来です。この地磁気嵐は、11月14日14時頃(日本時間)に終了しました。

図8:気象庁地磁気観測所(柿岡)による地磁気指数。グラフの時刻はUT表記。

この地磁気嵐の発生に伴い、北日本各地の空で低緯度オーロラの発生が報告されています。写真(図9)は、NICTサロベツ電波観測施設(北海道天塩郡豊富町)の屋上から撮影された赤い低緯度オーロラの様子です。サロベツ電波観測施設では、11月12日の日没後の17時半ごろから雲がかかる20時頃までの間、オーロラを観測することができました。

図9:NICTのサロベツ電波観測施設(北海道)にて観測された低緯度オーロラ(画像下部中央の赤い光)

7. 電離圏嵐

地磁気嵐の発生に伴い、日本時間の11月12日の午前中より夕方まで、国内全域において電離圏正相嵐の発生が確認されました(図10)。正相嵐の規模は大きく、緯度37度帯の1時間平均全電子数が130TECU以上(図10左、上から3段目)、国分寺におけるイオノゾンデ観測のF層臨界周波数が20MHz以上(図10右、上から2段目)と、それぞれの観測史上の最大規模に匹敵します。更に、13日の日中には稚内(サロベツ)におけるイオノゾンデ観測のF層臨界周波数が通常より低く(図10右、最上段)、電離圏負相嵐の発生が確認されました。

図10:国土地理院GEONETデータから算出された日本上空の電離圏全電子数の推移(準リアルタイム版)(左)と、
イオノゾンデ観測により得られた国内4地点のF層臨界周波数の推移(右)

シミュレーション

以下に、NICTの太陽風シミュレーションSUSANOOによって算出された太陽風の予測値を示します。太陽フレアに伴って放出されたコロナガスが地球に向かって伝播している様子が可視化されています(図8)。黄色が高速なコロナガスの領域です。コロナガスの先端の衝撃波が、11月12日(日本時間)夜間に到来することがシミュレーションにより予測されています。

図8:地球に到来する太陽風速度と太陽風磁場の南北成分の推移予測(上)と、
    11月12日21時(日本時間)の惑星間空間の太陽風の速度の分布(下)

用語解説

・太陽フレア

太陽の黒点付近で生じる爆発現象。強い紫外線やX線、電波等が放射されるほか、コロナガスが放出されることもあります。発生したフレアのX線強度の最大値により、小規模なものから、A、B、C、M、Xの順にクラス分けされています。

・デリンジャー現象

大規模な太陽フレアに伴うX線や紫外線の急増により、高度60-90 km程度の電離圏D領域が異常電離して電子密度が高くなり、通常はD領域を通過する短波帯の電波が吸収されてしまう現象。

・太陽電波バースト

太陽フレアに伴って、MHz〜GHz帯の電波強度が急激に増加する現象。MHz帯の電波バーストは、太陽からプラズマの塊が飛び出したコロナガス放出のシグナルとなるため、地球への影響を判断するために利用されています。

・コロナガス放出(Coronal Mass Ejection(CME))

太陽の上層大気であるコロナのガスが惑星間空間に放出される現象。地球に到来すると大規模な宇宙環境変動を引き起こすことがあります。

・プロトン現象

太陽フレアやコロナガス放出に伴い、高エネルギーの粒子が放出され、静止軌道(高度約36,000 km)上で観測されるエネルギーが10 MeV以上のプロトン粒子フラックスが10 PFU(Proton Flux Unit [particles/cm2 sr s])を超える場合を「プロトン現象」と呼ぶ。

・極冠吸収

大規模なプロトン現象が起きた際に、プロトン粒子が地球の磁力線に沿って極域に流れ込む影響により、極域において短波帯の電波が吸収されて通信できなくなる現象。

太陽・太陽風について

磁気圏について

電離圏について

宇宙天気による社会への影響について