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2025年11月9日〜11日にかけて太陽面で大規模な爆発が複数回発生、地球方向への高速コロナガスの噴出を確認
2025年11月12日 14時00分 作成
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)は、日本時間11月11日(火)19時4分に、太陽面北西付近に位置する黒点群14274において、大型の太陽面爆発現象(太陽フレア)の発生を確認しました。この現象に伴い、地球方向への大規模なコロナガスの噴出が複数回観測されており、高エネルギーのプロトン粒子の増加も確認されました。放出されたコロナガスの一部がすでに地球周辺に到来しており、今後1~2日以内にさらにコロナガスが地球に到来・通過することが予測されています。この影響で、地球近傍の宇宙環境や電離圏、地磁気が乱れる可能性があり、GPSを用いた高精度測位の誤差の増大、短波通信障害への影響、人工衛星の運用への影響などが生じる可能性があります。続報にご注意ください。
よくある質問は、こちらをご参照ください。
背景
NICTは太陽活動や宇宙環境変動の観測を行い、その現況と推移に関する情報提供を行っています。
観測した現象
1. 大規模太陽フレア
太陽面の中央付近に位置していた黒点群14274で、日本時間11月9日(日)から11日(火)にかけて、Xクラスの大規模太陽フレアが複数回発生しました。
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発生日(日本時間) |
発生時刻(日本時間) |
規模 |
|---|---|---|
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2025年11月9日 |
16時35分 |
X1.7 |
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2025年11月10日 |
18時19分 |
X1.2 |
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2025年11月11日 |
19時04分 |
X5.1 |
X線強度の推移(図1)と、発生した太陽フレアの紫外線観測画像及び黒点の画像(図2)を以下に示します。
図1:人工衛星GOES(米国NOAA)により観測された太陽X線強度
図2:人工衛星SDO(米国NASA)により観測された太陽白色光画像(上)と、
人工衛星GOES(米国NOAA)により観測された太陽紫外線画像(下)
2. デリンジャー現象
11月9日に発生したX1.7クラスの大規模太陽フレアの発生に伴って、デリンジャー現象が発生しました。NICTのイオノゾンデにより観測された11月9日のデリンジャー現象と、観測画像の例(図3)を以下に示します。
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発生日(日本時間) |
発生時刻(日本時間) |
場所(規模) |
|---|---|---|
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2025年11月9日 |
16時30分 |
山川以南(弱い) |
図3:イオノゾンデ(鹿児島 山川)による電離圏観測。白丸で示した部分の電離圏エコーの消失が確認できる。
3. 太陽高エネルギー粒子
11月10日に発生したX1.2クラス及び11日に発生したX5.1クラスの大規模太陽フレアに伴い、静止軌道(高度約36,000 km)で高エネルギープロトンの増加が観測されました(図4上)。米国の静止軌道衛星GOESの観測によると、X1.2クラスの太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが11月10日18時55分頃(日本時間)から上昇し、20時25分に10 PFUを超えました(プロトン現象①)。その後、11日12時10分頃(日本時間)に10 PFU以下の低いレベルまで減少しました。
また、X5.1クラスの太陽フレアの影響によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが11日18時40分頃(日本時間)から上昇し、18時55分に10 PFUを超えました(プロトン現象②)。その後、20時55分に100 PFUを超えました。
さらに、地球周辺への衝撃波到来によりエネルギー10 MeV以上のプロトンフラックスが12日8時30分頃(日本時間)から再び上昇し、10時40分(日本時間)に1000PFUを超えました(プロトン現象③)。現在も1000PFU付近の高い値を推移しています。
また、静止気象衛星ひまわりの観測から、日本経度域の静止軌道(東経140度)でも同様にプロトンが増加していることが確認されました(図4下)。
図4:静止軌道衛星GOES(米国 NOAA)によるプロトンの観測値(上)、および
気象衛星ひまわり9号(日本 気象庁・NICT)によるプロトンの観測値(下)
4. 太陽コロナガス
今回観測された3例の大規模太陽フレアに伴い、それぞれ地球方向へのコロナガスの放出が観測されました。このコロナガスの放出の様子(図5)を以下に示します。
図5:探査機SOHO(欧州ESA・米国NASA)によって観測されたコロナガス放出の様子。中心部の白丸が太陽の位置を示す。
5. 太陽風
探査機ACEの観測によると、今回観測された大規模太陽フレアに伴い放出された太陽コロナガスの一部が、11月12日8時34分頃(日本時間)に地球周辺に到来したことが観測されました(図6)。太陽コロナガスの到来に伴い太陽風の速度・磁場強度が上昇し、速度が約730 km/s、磁場強度は約62 nT、磁場の南北成分は一時 -55 nT前後の非常に強い南向きの状態となっています。
図6:探査機ACE(米国NOAA・NASA)による太陽風の観測値。グラフの時刻はUT表記。
6. 電離圏嵐
地磁気嵐の発生に伴い、日本上空では11月12日朝方から日本各地で電離圏正相嵐の発生が確認されました(図7)。引き続き、電離圏の擾乱に注意が必要です。
図7:国土地理院GEONETデータから算出された日本上空の電離圏全電子数の推移
シミュレーション
以下に、NICTの太陽風シミュレーションSUSANOOによって算出された太陽風の予測値を示します。太陽フレアに伴って放出されたコロナガスが地球に向かって伝播している様子が可視化されています(図8)。黄色が高速なコロナガスの領域です。コロナガスの先端の衝撃波が、11月12日(日本時間)夜間に到来することがシミュレーションにより予測されています。
図8:地球に到来する太陽風速度と太陽風磁場の南北成分の推移予測(上)と、
11月12日21時(日本時間)の惑星間空間の太陽風の速度の分布(下)
用語解説
・太陽フレア
太陽の黒点付近で生じる爆発現象。強い紫外線やX線、電波等が放射されるほか、コロナガスが放出されることもあります。発生したフレアのX線強度の最大値により、小規模なものから、A、B、C、M、Xの順にクラス分けされています。
・デリンジャー現象
大規模な太陽フレアに伴うX線や紫外線の急増により、高度60-90 km程度の電離圏D領域が異常電離して電子密度が高くなり、通常はD領域を通過する短波帯の電波が吸収されてしまう現象。
・太陽電波バースト
太陽フレアに伴って、MHz〜GHz帯の電波強度が急激に増加する現象。MHz帯の電波バーストは、太陽からプラズマの塊が飛び出したコロナガス放出のシグナルとなるため、地球への影響を判断するために利用されています。
・コロナガス放出(Coronal Mass Ejection(CME))
太陽の上層大気であるコロナのガスが惑星間空間に放出される現象。地球に到来すると大規模な宇宙環境変動を引き起こすことがあります。
・プロトン現象
太陽フレアやコロナガス放出に伴い、高エネルギーの粒子が放出され、静止軌道(高度約36,000 km)上で観測されるエネルギーが10 MeV以上のプロトン粒子フラックスが10 PFU(Proton Flux Unit [particles/cm2 sr s])を超える場合を「プロトン現象」と呼ぶ。
・極冠吸収
大規模なプロトン現象が起きた際に、プロトン粒子が地球の磁力線に沿って極域に流れ込む影響により、極域において短波帯の電波が吸収されて通信できなくなる現象。